本稿では、受験勉強について「いつから勉強を始めるのがいいのか?」「1日にどのくらい勉強すればいいのか?」を解説しています。
前半では一般的な中学生・高校生の勉強時間の目安を説明します。後半では「自分に合った勉強時間」や「受験勉強をスタートする時期」を知る方法を解説しています。
脳のメカニズムや時間との向き合いかたについて正しく理解することが、受験勉強が順調に進むばかりか、人生の様々な問題解決に繋がります。
受験勉強の時間は「目標」が基準になる
受験勉強は1日何時間くらい行うのがいいのでしょうか?
志望校に合格するための勉強時間の目安は知りたいところですし、他の受験生と差をつけられたくないとう気持ちもあることでしょう。
本章では高校受験や大学受験を念頭に置いて話を進めます。中学校・高校がともに3年制で、また受験者数が多いからです。
本章のポイントはこちらです。
Point
・中学3年生の勉強時間は「平日2~3時間、休日3~4時間」が目安
・高校3年生の勉強時間は「平日3~4時間、6~8時間」が目安
・勉強時間は目標からの逆算で決まる
・目標を遠くに設定することでやる気もアップする
それでは詳しい内容を見ていきましょう。
中学生・高校生の受験勉強時間の目安
多くの場合、中学生・高校生はともに3年生が最高学年で受験生となります。中学3年生と高校3年生の、一般的に必要とされる勉強時間をみてみましょう。
・中学3年生の勉強時間:「平日2~3時間、休日3~4時間」が目安
・高校3年生の勉強時間:「平日3~4時間、6~8時間」が目安
上の勉強時間はあくまで目安です。受験生の平均勉強時間などを参考にして書きましたが、後述する通り個人差があります。
また体調や環境等によっても当然変わるものですから、無理をして勉強時間を目安に合わせようとしないことをお薦めします。
受験勉強の時間は一人一人違う
受験勉強の時間は人によって違います。勉強時間の目安を知りたくて記事をお読みの方にこのように言うと身もふたもない話のようですが、重要なポイントです。
そもそも一人一人が違う学力到達度で、違う進路を志すわけですから、志望校に合格するために必要な勉強時間が同じであるはずがないのです。
勉強時間が人によって違うのであれば、自分の受験勉強は何時間行えばいいのでしょうか?
それを決めるために必要なのが「目標」です。勉強時間とは本来、自ら設定したゴールからの逆算によって導かれるべきものだったのです。
受験勉強を「旅行」でイメージすると?
目標からの逆算。このイメージがつかみやすいのが「旅行」です。
皆さんが旅行に出かけるとして、以下のものを決めると想像してみてください。
・持っていくもの
・所持金
・移動手段
・服装
…決められるでしょうか?旅行に行くときには自然と決めておくものばかりですが、ここではあるものが欠けているばかりに、決めることができません。
それは「目的地」です。旅行では未来に向かうべき目的地が設定されていて初めて、現在自分が行うべきことが決まります。
この「未来のゴールが現在の基準となる」ことは、目標達成のために大切な考え方となります。
「自分は1日に何時間くらい勉強するのがいいのだろうか?」ということば、自分の設定する未来の目標によって決まるということです。
「現在地」と「目的地」が志望校合格のナビゲーション
始めに目標を設定し、目標から逆算することで現在するべきことが見えてくる。
志望校合格に向けた勉強の基準は「現在地」と「目的地」の2つの関係から浮かび上がります。また旅行の例で考えてみましょう。
旅行でかかる移動時間は、主に2つのポイントによって変わります。
・「どこから」向かうのか?(現在地)
・「どこへ」向かうのか?(目的地)
目的地へと到達するのにかかる時間は、上の2つの関係によって変化するものです。
例えば「東京」という目的地に向かうのに、「千葉」からなら短時間で辿りつけるでしょう。しかし、「京都」から向かうとなると所要時間は伸びますし、「島根」からはもっと時間がかかりますね。
受験勉強の場合でも、同じ志望校に合格するためにかかる勉強の時間は「現在地」によって変わります。現在の自分の学力(試験のスコア)と志望校合格のために必要なスコアが、勉強を行うためのナビになります。
受験勉強はいつから始めるのがいいのか?
勉強時間と同じように関心が高いのが、志望校に向けた受験勉強をいつから始めるのかということです。
受験勉強を始める時期についても、目標が基準となる点では同じです。自分が設定したゴールから逆算して、必要な時期に勉強をスタートします。
もちろん、受験勉強をスタートする時期は早ければ早いほど志望校には合格しやすくなります。勉強の総時間が確保できますし、中学校や高校3年次に学ぶ内容は1、2年生で学習する内容と繋がっています。
とは言え1、2年生は部活動や学校行事もありますし、余暇の時間も必要です。とにかく勉強時間が長ければ良い訳ではなく、生活の中でバランスが保たれていることが理想的でしょう。
志望校が決まっていなくても「仮のゴール」を設定して選択肢を広げよう
目標からの逆算で勉強をスタートすると言っても、志望校などを1、2年生のうちから決めるのは難しいかもしれません。その場合は、とりあえずの仮のゴールを設定しましょう。
早い時期から勉強の習慣を身に付けておけば、進路の選択肢が広がります。もちろん知識を身に付けること自体がとても大切なことです。
「今は卒業後の進路は決めていないが、選択肢が広がるように準備しておこう」というように、未来志向で勉強をしておく感じです。
先ほどの旅行の例の通り、人間は未来に向けて行動を起こします。また他人から強制されることには意欲が湧きませんから、自分で選んで勉強をするという意識が大切です。
受験勉強で「やる気」を引き出す目標設定術
本章では、受験勉強でやる気を引き出すことができる正しい目標設定の方法を解説します。人間に共通している脳と心の仕組みを活かした勉強法を実践することで、時間をより有効に過ごすことができるでしょう。
Point・受験勉強の目標は「現状の外側」に設定する
・現状と目標との間のギャップが大きいほど強いエネルギーが生まれる
・脳にはラス(RAS)と呼ばれるフィルターがある
・先にゴールを設定すれば、達成の方法は後から見えてくる
それでは一つずつ見ていきましょう。
脳のメカニズムを活かす受験の目標(志望校)設定メソッド
受験勉強を進めるためには目的地を先に設定することが重要であることは先ほど確認しました。
目標を設定する際のポイントは「できるだけ遠くの目標にする」ということです。今の自分のままではとても達成できないような、現状の外側に未来のゴールを設定しましょう。
遠くに目標を設定することには、主に2つの理由があります。
①現在の自分とのギャップが大きい程、より大きなエネルギー(やる気)を引き出すことができる
②現状の外側に目標を設定することで心理的な盲点が外れ、新しい発見が生まれる
一つずつ見ていきましょう。
高い目標を設定することで受験勉強のモチベーション(やる気)が高まる
受験勉強を行うときに設定する目標は、なるべく大きなものにしましょう。これは「難関校に入学する方がいい」ということではありません。
そうではなくて、より大きな目標を設定しておくことで、脳が持っているポテンシャル(潜在能力)を引き出すことができるからです。
もし目標が低く、現在の自分に手が届きそうなものであったらどうなるでしょうか?このとき脳は「今のままの自分を維持しよう」と感じます。
本人としては勉強をした方がいいと思っていても、現状の延長線上にゴールが設定されていると脳は現状を維持します。
目標と現在の自分との間により大きなギャップを作ることで、その差を埋めるためのエネルギーを引き出すことができます。
これは「輪ゴム」が引き伸ばされると引っ張り合うことに似ています。身近な目標を設定することは、自分を引き上げるための力が0の状態です。
遠くに目標を設定することで、勉強に新しい視点を取り入れることができる
人間の脳にはラス(ラス)と呼ばれるフィルター機能があり、このラスが情報を無意識に選り分けています。
例えば自分の好きな人物や作品など、人間は脳が重要だと判断した情報を受け取っています。
今の自分のままでは到達できないような目標を設定することで、これまで脳にカットされていた情報が見えるようになります。
再び旅行の例で考えてみましょう。
旅行に行くときには、あらかじめ移動手段などを細かく知っている必要はありません。先に目的地を決めてしまえば、あとから必要な情報について調べることができます。
受験勉強でも同じことです。達成の方法が分からないような目標でも、行き先として設定してしまえば方法は後からラスが集めてくれます。
受験の目標は「学校」である必要はない
より遠くの目標の方がいいとすれば「とにかく志望校の難易度を上げる」という話に聴こえるかもしれませんが、そうではありません。むしろ高校や大学の入学試験で合格することを目標とするよりも、その先までイメージする方がいいと思います。
「入学試験後、学校に入学してから何をしたいのか」
「将来どのような自分になりたいのか」
これらのように入試の先に目標を設定することができれば、その途中経過として受験勉強の必要性を自然と感じることができます。
高校受験、大学受験は本来、その学校に入学してからの時間が目的です。入試で合格することがゴールになっていると、その時点で進むべき方向を失ってしまうことになります。
これは先ほどの輪ゴムの例で言うと、引っ張り合う力がなくなっている状態です。目標が達成される前に、次の目標へと更新することが大切です。
心の「自動操縦機能」で受験勉強を進める方法
受験勉強について「時間は目標からの逆算で導かれる」もので、「目標は現状の延長線上にはない遠くに設定する」ことを確認してきました。
Point
・ゴールを達成している自分を脳に刷り込むと、脳は自動的にそちらに向かう
・目標をすでに達成しているイメージを脳に刷り込む
・言葉やビジュアル(映像)で理想のイメージを強化する
心の自動操縦機能を勉強に向けて起動する!
高い目標を立てると聞いて、「自分とかけ離れているとやる気が起きない」「必死に頑張らなければならない」という印象を受けた方もいるかもしれません。
しかし脳の仕組みを活かした方法を使えば、自然に目標へ向けて勉強を進めることができます。
皆さんもこちらのような例に馴染みがあることでしょう。
・勉強をしようと思っても、ついつい他のことをしてしまう
・ダイエットがなかなか続かない。やせてもリバウンドしてしまう
これらはホメオスタシスと呼ばれる脳の現状維持の働きが関係していると感がられます。
「変わりたくても変われない」。このとき、脳にとっては昨日まで生きてこられた世界を今日も維持することが優先です。
このホメオスタシスの働きを逆向きに利用することで、ついつい目標達成に向かってしまうマインドを作ることができます。
目標をすでに達成しているイメージを脳に刷り込む
脳はホメオスタシスの働きによって現状を維持します。ではどうすれば目標が達成できるのかと言えば、「目標を達成している自分を現状として脳に刷り込むこと」です。
脳が維持するのは現実の自分ではなく、イメージの中のあるべき自分です。つまり「高いモチベーションで受験勉強を進めている自分」「成績が向上している自分」イメージが強化されれば、脳はその実現に向けて働きます。
このとき頑張って勉強をするという感覚はなく、快適な場所についつい向かってしまうような気持ちでゴールへと向かうことができます。
セルフイメージの書き換えが受験勉強を加速する
人間はセルフイメージ通りの自分を無意識(自動的)に維持していると考えられます。
勉強をしなければ、と思っても別のことをしてしまうのは、今の成績の自分がセルフイメージに合っているからです。セルフイメージから離れようとすると、自分自身の無意識の抵抗に遭います。
ではどうすればいいのかと言えば、セルフイメージを書き換えることです。そのためには「ワード・ピクチャー・エモーション」の3つの要素を利用します。
・ワード=言葉。声に出したり、頭の中で使っている言葉のこと。
・ピクチャー=映像。頭の中で思い浮かべる視覚的なイメージのこと。
・エモーション=情動。嬉しい、楽しい、誇らしいなどの感情の働きのこと。
これら3つを組み合わせながら、目標を達成しているイメージの臨場感を高めます。
言葉を使う方法
言葉を使ったセルフイメージの書き換えはシンプルで「ポジティブな言葉だけを使うこと」です。
自分が使っている言葉を日々モニターします。ネガティブな言葉を減らしていき、ポジティブな言葉だけを使うようにしていきます。
目標達成のイメージとしては、現在形で言葉にすることがポイントです。
「私は○○大学に合格して嬉しい」
「私は毎日勉強が進むのが楽しい」
一人称(私)で、今起きていることとして言葉にすると、脳は現実とイメージとの間にギャップを感じます。脳は一つの整合性が取れた状態を保ちますから、高いセルフイメージを維持すれば、イメージの自分を選ぶしかありません。
イメージを使う方法(ビジュアライゼーション)
頭の中で理想の自分をビジュアル化(映像化)し、イメージの世界の臨場感を上げる方法です。
受験勉強について高い目標を設定したら、その目標を達成している自分をリアルに想像しましょう。合格して嬉しい気持ちでもいいですし、合格後の楽しい学生生活を想像するのでも構いません。
イメージは視覚だけでなく、音や感触などの五感を働かせて鮮明なものにします。
人間の脳は現実とイメージとを明確に区別していません。
映画を見て感動で涙を流したり、恐怖で心拍数が上がったりすることがあります。映像がフィクションだと知っていても、体は現実として反応しているのです。
遥か遠くの目標をリアルにイメージすることで、脳にとっては現実として感じられます。ところが現在の自分はイメージとは違いますから、そこに違和感が生まれます。
現在の自分に違和感を感じ、目標達成へと自然と動き始めたら、脳の自動操縦機能が働いている証拠です。
このようなイメージは、朝起きた時や寝る前などに行うことを習慣化してください。
まとめ
【受験勉強の時間】
●受験勉強の時間は一人一人違うもの
●勉強時間は「目標からの逆算」で浮かび上がる
●目的地が設定されることで、初めて現在行うことが決まる
【受験勉強の目標設定】
●目標は現状の外側。遥か遠くのゴールであるほど良い
●身近な目標では脳は「今のままでいい」と感じ、モチベーションが上がらない
【脳の自動操縦機能】
●ホメオスタシスの働きで人間は現状を維持する
●理想の自分を現状として脳に刷り込むと、脳は自動的に目標へと向かう
●ポジティブな言葉を使い、理想のイメージを思い浮かべる