本稿では勉強のやる気を引き出すための8つの方法を解説しています。
「やる気」=「モチベーション」の問題は、テスト勉強や受験勉強でたびたび持ち上がる話題です。勉強はやり方によっても効果がずいぶんと変わりますが、行動に移すモチベーションがなければ効果は0のまま。
この記事でご紹介するのは脳のメカニズムを活かした方法であり、「ついつい勉強してしまう」「成績アップに自然と向かってしまう」ようなナチュラルなモチベーションを引き出す強力な理論も含まれています。
すぐに実践できるものから長期的に効果を発揮するものまで、ご自分に合った方法を試してみてください。
勉強のやる気を引き出すための8つの方法
「今回こそは勉強を!と思いつつ、テスト期間にはついつい別のことをしてしまう…」
「勉強をしなければと思っているのに、やる気が湧いてこない…」
勉強についてのこれらのような悩みは誰しもが体験したことがあるのではないでしょうか?
「変わりたいのに、変われない」。このような性質は人間がもともと持っているもので、脳(心)
の仕組みが関係しています。
脳の仕組みを活かした正しい勉強方法を実践することで自然と勉強へのやる気が湧いてくる状態を作ることができるのです。
それでは脳の仕組みを活かした「勉強のやる気を引き出す8つの方法」を見ていきましょう。
1.勉強について高い目標を設定する
高い目標を設定することで勉強のやる気を引きだすことができます。目標のことをゴールと呼んでもいいでしょう。
目標設定には「実現可能なもの」というアドバイスもありますが、これでは成長が望めません。目標は高ければ高いほどいいものです。
「現在の自分」と「目標」との間にあるギャップが大きいほど大きなエネルギーが引き出されます。そのエネルギーこそが勉強のやる気でありモチベーションです。
具体的な例で考えてみましょう。
現在テストの平均点が50点の人がいたとします。その人が「次のテストでは55点を取る!」と目標設定したとしましょう。
もともと平均点が50点の人にとって、55点は現状のままでも取れそうな点数です。このとき脳は「今のままでいいや」と感じますから、変化を引き起こす力が生まれません。
目標は常に現状の外に設定するようにします。今の自分のままでは到達できないような遠くに目的地を設定すると、脳は今の自分に違和感を感じ、目標の世界へと移動しようとします。
2.勉強の高い自己評価を持つ
人間は無意識に「自己評価通りの自分」になると考えられています。自己評価はエフィカシーとも言われ、これは「自分の能力に対する自己評価」の意味です。
エフィカシーで重要な点は、他人の評価ではなく自分の評価だということです。これは自分で自由に設定していいものです。
単純に自己評価を高く保つというのでも始めはいいですが、1番目で説明した「高い目標」とワンセットにするのが理想的です。
自分が目指したい遠くの目的地に対して、それを自分は達成できるという自己評価を保つ。現状の外側のゴールと高いエフィカシーが望む場所へと自分を導くナビゲーションです。
人間の脳はイメージした(思い描いた)方向へ自然と向かおうとする性質があります。
勉強ができるようになりたければ、高いエフィカシーを維持しましょう。自己評価が上がれば脳はそのイメージ通りの自分を実現しようとします。
このイメージへと向かう力がやる気であり、モチベーションです。
自己評価を変えずに行動を変えようとするとどうなるでしょうか?脳は元の自分をあるべき状態だと感じていますから、現状を維持します。
これが「変わりたいのに変われない」ということが起きる脳のからくりです。本人が勉強ができるようになりたいと思っていても、脳は変わりたくないと感じているのです。
自己評価を上げるための方法は、次の『3.ポジティブな言葉を使う』などを参考にしてみてください。
3.ポジティブな言葉を使う
言葉は私たちの日々の生活に大きく影響しています。「言葉が人生を決める」「私たちは私たちの使う言葉でできている」などの格言があるほど、言葉が人生に与える影響は多くの人の共通の意見であるようです。
勉強のやる気を引き出すためには、ポジティブな言葉を使うことが大切です。肯定的なイメージが湧き上がるような言葉を使いましょう。反対に、ネガティブな言葉は使わないように心がけます。
自分が使っている言葉をセルフトークと言い、これは頭の中の言葉も含みます。このセルフトークをコントロールすることが勉強のやる気を引き出す鍵となります。
「言葉を変えるだけで勉強ができるの?」と思う方がいるかもしれませんね。しかし、言葉が人の体や行動に影響を与えていることは皆さんご自身も体験しているはずです。
人が発する言葉一つで喜んだり、傷ついたり。あるいは小説に書かれたストーリーに感動して涙を流したり。
本人に自覚があるかどうかに関わりなく、現に言葉は人間の現実に影響を与えています。
言葉に人を動かす力があるならば、それを自分が望む方向に使えばいいですよね?ここまでに見てきた「現状の外側の目標」や「高い自己評価」を脳内でイメージする言葉を使いましょう。
単にポジティブな言葉を使うだけでも効果がありますが、自分に語りかけるフレーズをあらかじめ用意しておく方法もあります(アファメーション)。
勉強のアファメーションは例えばこのようなものです。
・私はテストで満点を取れてうれしい
・私は勉強を楽しみながら意欲的に進めている
・私は○○大学に合格して誇らしい
アファメーションの基本的なポイントは「一人称」「肯定形」「現在形」であることです。「私は~」という形で、ポジティブな表現だけを使い、すでに目標を達成している内容にします。
現実世界では起きていないことを言葉で現在形で繰り返すことで、脳内のイメージが書き換わります。継続すると、自然に言葉でイメージされた方向へと行動が引き起こされます。
4.笑顔で勉強するとやる気が出る
勉強中に笑顔を作るとやる気がアップします。こちらはすぐに実践できるシンプルなものですが、科学的な根拠がある方法です。
脳は頭蓋骨の中に納まっていて外の世界に直接触れることはまずありません。しかし、私たちが感じている「現実」は脳が生み出している空間です。
外界を全く知らない脳が、現実を生み出している。どうしてそのようなことができるのかと言うと、脳は体を通して送られてくる情報に頼っています。
笑顔で勉強するとき、頭の中にある脳にとっての世界とはどのようなものでしょうか?
自分は今「勉強」をしています。顔は「笑顔」でいるから、何か楽しいことがあるはずです。ということは「自分が今行っている勉強が楽しい」という解釈が生まれます。
実際に笑顔でいると感情として楽しさがアップするのです。
これは漫画の面白さを評価するという実験でも確認されています。
被験者を2つのグループに分け、一方には普通に漫画を読んでもらいます。もう一方のグループは割りばしを横に加えて口を「イー」とした状態で漫画を読んでもらいます。
このとき、割りばしを口にくわえているグループはそうでないグループと比べて、漫画が面白いと感じる傾向がありました。その理由は口が笑っている形になっているからだと考えられています。
脳にはそもそも一つのつじつまが取れた状態を維持する働きがあります。先ほどの自己評価にしても、「勉強ができない自分」と「勉強ができる自分」の両方を維持することはできません。だから、高い自己評価をキープすれば脳が自然とその世界を実現しようとするのです。
5.内発的動機で勉強する
モチベーションは「内発的動機(ないはつてきどうき)」と「外発的動機(がいはつてきどうき)」の2つの種類に分けることができます。
内発的動機:「~したい」という自分の内側から湧く力によって動く状態
外発的動機:「~しなければならない」という他人からの強制によって動く状態
勉強においてどちらの動機がより望ましいかと言えば、当然「内発的動機」の方です。
自分の好きなゲームや漫画には何時間でも没頭し、情報はどんどん頭に入ってきます。人は「したい」という内側からのモチベーションによって動くとき、初めて力を発揮することができるのです。
ハーバードビジネススクールが行った心理実験によれば、内発的動機での生産性は756倍という驚異的な結果を示しています。
内発的動機を持つことができれば自ら勉強に向かい、知識や理論をどんどん吸収していきます。反対に「勉強をしなければならない」と思っているときに脳は勉強を避けようとします。
「しなければならない」という言葉の裏には、「本当はしたくない」というメッセージが込められているからです。
これまでご紹介した目標設定やセルフトークのコントロールなどの方法論もまた、内発的なモチベーションを引き出すものです。脳に刷り込まれた理想のイメージへと向かうことは、真夏の暑い日にクーラーが効いた涼しい部屋に向かうようなナチュラルな働きだからです。
言葉を使った方法としては「勉強は楽しい」「私は勉強が大好きだ」などの言葉を繰り返し呟いてみるのがお薦めです。シンプルな方法ですが、脳にはこのような繰り返しが効きます。
6.好きな音楽を聴きながら勉強する
好きな音楽を聴きながら勉強をすると集中力がアップする場合があります。ただし、音が流れているとかえって勉強がしづらい方は無理をして音楽をかける必要はありません。
人間は目を閉じることはできますが耳を閉じることはできません。脳は常に「音」という情報をキャッチしており、無意識のうちに気持ちに変化が起きています。
運動と音楽の関係とを調べた実験では、音楽を聴きながら一定の負荷の運動をしたグループでは疲労が軽減されることが報告されています。
音楽を聴くことでリラックスすることができ、パフォーマンスが上がったのかもしれません。
また、脳の働きとしてハロー効果と呼ばれる現象があります。
ハロー効果は、ある物事に対する評価が関連する別の物の評価に伴って変化することです。簡単に言うと、好きなものとワンセットになっているものは好きになりやすいということ。
自動車のCMを思い浮かべてみてください。ピカピカの新車が走るのは美しい海岸線が見える道路などで、人がうらやむような同乗者とともにドライブを楽しんでいます。
同じ車種であっても、ボロボロの中古車がスラム街を走っている様子を見ると、車種そのものへの評価は自然に変わるでしょう。
自分が好きな音楽をBGMとして流しておくことで勉強と好きなことをワンセットにすることができます。勉強に対する意欲も湧いてくるでしょう。
7.勉強という行動から「作業興奮」を起こす
意欲が湧いているから勉強するという順番が自然に思われますが、勉強をするから意欲が湧くという関係もあります。
行動によって意欲が喚起される。このような作用を「作業興奮」と呼んだりします。あまり気分が乗らなくても、とにかく行動を起こしてしまえば気持ちが後からついてくるということです。
脳の仕組みで言えばドーパミンと呼ばれる運動ホルモンが関係していると考えられます。ドーパミンは快楽ホルモンとも捉えられますが、未来に向けて行動を引き起こすためのやる気ホルモンとの役割も重要です。
勉強という行動を引き起こすことで体から脳へのフィードバックが送られ、意欲を湧かせるドーパミンが流れます。
「案ずるよりも生むがやすし」ということわざにある通りですね。
8.勉強にいらないものが目に入らないようにする
勉強をしようとしても「つい漫画を読んでしまう」「ついYouTubeを開いてしまう」。このような場面で効果的なのが勉強に必要のないものが目に入らないようにすることです。
先ほど、勉強が「したい」という内発的動機であれば積極的に取り組めることはご紹介しました。勉強が気になってゲームに身が入らない、ということはありませんから、勉強を好きになることが最も望ましい状態です。
しかし勉強に対する脳内イメージを書き換える方法にはある程度の時間がかかります。
そこで、勉強の邪魔になるものを目に入らないところに置くようにします。特に手を伸ばしがちなのはスマートフォンでしょう。手が届かないところに置いておくのもお薦めです。
CMなどでおいしそうな食べ物の映像を見ると、お腹が減っていたわけでもないのに食べたくなります。外部からの刺激によって欲求が湧くことがあるわけです。
スマホが目に入らないようにすれば、スマホの存在が意識の上から薄れます。また自分から離れたところに置いておくことで、使うためのハードルを自ら上げることができます。
そうすれば、自然に向かうべきタスク=勉強への集中力が高まります。引き算の発想と言ってもいいかもしれません。
まとめ
1.勉強についての高い目標を設定する
2.勉強の高い自己評価を保つ
3.ポジティブな言葉を使う
4.笑顔で勉強をする
5.内発的動機で勉強する
6.好きな音楽を聴きながら勉強する
7.勉強で「作業興奮」を引き起こす
8.勉強にいらないものが目に入らないようにする