本稿では、脳の仕組みを活かした10の勉強法を解説しています。主に中学生や高校生の学校での勉強を念頭に置いていますが、幅広く通用する内容になるよう心掛けました。
皆さんは、最も効率の良い勉強法のとはどのようなものだと思いますか?私はそれを「脳のメカニズムに合っている勉強法」だと思います。
また、勉強法は誰にでも実践できるものであって初めて効果があるものだと思います。方法論そのものが難しければ、継続して成果を出すことは難しいものになってしまいます。
効果的な勉強法を実践して頂き、目標達成へと繋がれば幸いです。
脳のメカニズムを活かした10の勉強法
中学校での勉強、高校での勉強。あるいは、大学生や社会人になってからの勉強。いずれにおいても、時間を掛ける以上は効果的な勉強を行いたいものです。
効果的とは単に「短期で成績が上がる」という意味だけではありません。「教養を身に付け、豊かな人生を生きる」ということもまた、勉強によってもたらされる効果だと言えるでしょう。
それでは、10の勉強法を順番に見ていきましょう。
1.大きな目標を設定する
勉強を進めるためには、まず大きな目標を設定しましょう。
人間は未来に向けて行動を起こします。これから勉強を行うときにも、自分が進むべき目的地を明確することが有効です。
ここで言う大きな目標は「現在の自分のままでは到達できない遥か遠くの未来像」です。
なぜかというと、目標達成のために自分が変化する必要性が生まれるからです。「現在の自分と目標とのギャップ」がエネルギー(モチベーション)を生み出します。
反対に、自分が達成できそうな身近なものを目標とするとどうなるでしょうか?これでは自ら脳に「変わらなくていい」というメッセージを送っているようなものです。
高校受験・大学受験の志望校やテストの目標点。あるいはもっと先の人生像に大きな目標を描きましょう。
人の心(脳)は、一つの整合性が取れたストーリーを自動的に維持します。現在の自分と目標の自分にギャップがあるとき、脳はどちらか一方しか選べません。目標を絶対に下げなければ、現実の自分が目標のイメージへと近づくしかありません。
2.勉強に脳の自動的な学習機能を利用する
勉強というと、「一つ一つ覚える」というイメージが強いのではないでしょうか?
知識を身に付けることは大事ですが、これは勉強の一つの側面でしかありません。例えば英語の場合、「単語」や「文法」を暗記するだけでは、文脈まで含めた内容理解には繋がらないでしょう。
英語を言葉として理解できるようになるためには、繰り返し英語に触れて英語に慣れることが必要です。
人間の脳は、刺激を与えると自動的に学習性質があります。
人間が学習するとは、脳内で新しい神経回路のネットワークが作られている状態と考えられています。ではどうすれば神経回路が強化されるかと言えば、その基本は「繰り返し」にあります。
反復練習によって物事に慣れることが、学習の基本にあると言えるでしょう。
日常で分かりやすい例は「自転車」です。
自転車のこぎ方は一つ一つ覚えるわけではありませんよね?しかし繰り返し練習をしているうちに感覚がつかめて乗れるようになります。
反復練習によって脳は自動的に学習する。この働きを勉強にも活かしましょう。
特に「英語」や「数学」などの教科は、勉強よりも練習のような感覚の方が上手くいくと思います。
3.セルフトークをコントロールする
目標へと向けて勉強を進めるためには、セルフトークのコントロールが不可欠です。セルフトークとは自分が使っている言葉のことで、声に出していない脳内の言語活動も含みます。
自分が日々使っている言葉をモニターし、コントロールしましょう。
1.ネガティブな言葉を使わない
2.ポジティブな言葉を使う
以上2つを心がけます。セルフトークを意識して変えなければ、人はネガティブな言葉が多くなりがちです。始めはネガティブな言葉を使うことから始めて、徐々によりポジティブな言葉を使うようにしていきましょう。
人間はセルフイメージ通りの自分になると言われています。
「もっと成績を上げたい。勉強をしなければ…」と思っていても、ついつい漫画やYouTubeに手が伸びてしまい、結局成績はいつもと変わらない。このような経験は誰しもあるのではないでしょうか?
本人は「成績を上げたい」と思っていても、脳(無意識)は「今のままがいい」と感じています。脳は現状維持を好むため、慣れ親しんだ空間へと自然と留まろうとします。
つまり、「勉強しなければならないと思いつつ、なかなか変われない自分」を脳は実現しているのです。
セルフイメージの形成で最も重要なのが言葉です。ポジティブなセルフトークを習慣化することで脳内の「あるべき自分像」を書き換え、勉強の目標達成へと自分を導きます。
4.内発的動機で勉強する
「モチベーション(やる気)」の問題は、勉強について常に高い関心を持たれています。成績アップや志望校合格を実現するためには、勉強という行動を引き起こさなければ始まりません。
やる気についてしばしば目にする方法として、「すぐに行動に移す」というものがあります。「やる気が出ない」と思っていても、実際に勉強を始めるという行動によって勉強に意識を集中することができます。この方法にも効果があるでしょう。
本稿ではこちらとは違ったモチベーション理論も学んでみましょう。
人が行動を起こすための動機は、大きく以下の2つに分けられます。
①内発的動機(~したい)
②外発的動機(~しなければならない)
内発的動機は、「したい」という本人の内側から湧きあがる意欲によって行動を引き起こすものです。自分の好きなゲームをしている時のようなモチベーションです。
外発的動機は、外部からの強制。本心ではしたくないけれど他者にやらされている心理状態です。
2種類の動機付け。上の説明を読むだけでも、勉強でどちらがより高いモチベーションを引き出すかが分かると思います。当然、本人が望んでいる「内発的動機」の方が積極的に勉強に取り組むことができます。
このとき有効なのが③でご紹介したセルフトークのコントロールです。「勉強しなければならない」という言葉を「勉強したい」などの自主的な言葉に置き換えましょう。
他人が勉強を強制することは、本来できません。勉強が本当にしたくなければしないという選択肢もあります。自分が設定した目標に向けて、自ら選んで勉強を行っているということをしっかりと意識してください。
5.脳内に勉強の「ToDoリスト」を作る
①の大きな目標の設定を「長期的なゴール設定」とすると、「ToDoリスト」は「短期的なゴール設定」です。
ToDoリストとはするべきことを項目化して整理したもの。あらかじめプランを明確にしておくことで日々の生産性をアップします。
基本は1日を単位に自分のプランを頭の中でシミュレーションします。前述の通り人間は未来に向けて行動を起こすものですから、未来の行動をイメージしておくことが重要です。
勉強であれば、その日行う勉強のシミュレーションを一日の始めに行いましょう。「今日は数学、英語を重点的に行って…」と確認しておきます。
このとき長期的なゴールが設定できていれば、達成のために必要なプロセスが逆算で確認できます。大きな目標の設定と、そこに至るための小さな目標の設定。これらを両立することで、未来のビジョンを現実の行動として写し取ることができます。
6.読解力を鍛える(読書をする)
高校受験でも大学受験でも、読解力は勉強のために不可欠です。人が勉強するというときには文字を通して行うものだからです。
教科書は全て文字で書かれていますし、テストも問題文を理解しなければ解くことはできません。大人が勉強する時にも基本的には同じです。
最近はオーディオブックやYouTubeなどの音声教材も豊富になっています。これらは移動中にも利用できますし、大変有益なものだと思います。しかし、文字で書かれた情報の重要性は今も変わってはいません。
人類が積み重ねてきた知識はいまだ文字で継承されているものが多いでしょう。また、文字で書かれている内容を自らの頭で読み解いて理解する力そのものが、脳を鍛えるトレーニングになります。
本を読み脳を鍛え、本物の学力を身に付ける。文字で伝わる先人たちの英知にアクセスする。読書は最高の学びの機会です。
7.頭の回転を速くする
頭の回転を速くすれば、勉強をよりスピーディに行うことができます。
「頭の回転を速くするなんてできるの?」と思われるかもしれませんが、これは案外簡単な方法でトレーニングができます。
本稿でお薦めする方法は以下の2つです。
・高速音読…声に出して文章を読み上げるスピードを上げていく
・速聴…3倍速、4倍速などの高速音声が聴きとれるようになるまで繰り返し視聴する
高速音読は、文字通り音読を速く行うものです。始めから速く読めなくても構いませんから、徐々に読み上げるスピードを上げていきましょう。
速く読むときには、ブツブツとつぶやくようすると読み上げがしやすいでしょう。声に出して読める上限スピードまで速くすることを目指します。
高速音読をしながら文章の内容を理解しているとき、脳内では読み上げスピードで言語が処理されています。つまり、頭の回転が速くなっているということです。
速聴は高速音声を使って強制的に頭の回転スピードを引き上げる方法です。インターネットやCD付の書籍などで音声を用意しましょう。
2倍速、3倍くらいの「速いが何とかついていける」と感じるところから取り組んで、4倍速で理解できるまで繰り返します。速聴を行うには、スクリプト(字幕)を目で追うと取り組みやすいでしょう。
『2.脳の自動的な学習の機能を利用する』でも解説した通り、高速音読・速聴のいずれも繰り返しによって脳が慣れてきます。始めのうちは効果が感じられなくても、続けるうちに効果が出てきます。
どちらも言語を使った方法で、学力に直結する読解力向上のトレーニングにもなるでしょう。
8.思考力を鍛える
思考力トレーニングを行うことで、物事の本質を理解したり、知識を組み合わせて自ら考える力が養われます。思考力のトレーニングと言っても基本はシンプルです。
・繰り返し考えること
脳は繰り返しによって学習するのですから、「考える力」は繰り返し考えることによって鍛えられていきます。筋肉を鍛えるように、繰り返し自分の頭を使って考えることで脳機能が向上します。
思考力を上げるポイントとしては以下のようなものが挙げられます。
①物事に疑問を持つ習慣をつける
②高い視点から、説明がつくように考える
身の回りの物事などについて、自分で疑問を持ってクリティカル(批判的)に考える習慣を身につけましょう。
例えば「入試制度改革」のニュースを見たとします。このとき情報をそのまま鵜呑みにするだけでは思考停止の状態です。
「入試改革のメリット・デメリットはなんだろうか?」「大量の情報の中からメディアがこの話題を報じたのはなぜだろうか?」「入試制度の変化は、教育現場や社会にどのおうな影響を与えるだろうか?」…
以上のように反論や疑問を持って考えていきます。他の人に説明ができるということが、自分の中で整然と理解できている目安になるでしょう。日々考えることで考える力そのものが鍛えられます。
一度立ち止まって高い視点から物事を見つめることで、自分の意志で物事を選ぶことができます。情報に流さることは他者に判断基準を委ねているのと同じです。
9.生活のバランスを保ちながら勉強する
勉強時間はとにかく長い方がいいと考えてしまいそうですが、人生には様々な側面があります。生活の中で勉強以外の活動とのバランスを保ちましょう。
しかし、勉強は健康な体がなければできないことです。また人生の中では人間関係や趣味の時間も大事で、豊かな余暇の時間が勉強や健康な体に繋がる、というサイクルもあります。
得意な分野があるのはいいことですし、1つのことに熱中することも充実した時間となるでしょう。ですが、自分の人生が上手く運んでいくためには一定のバランスは必要だと思います。
健康、趣味、仕事(お金)、勉強、人間関係、社会貢献etc..などの分野について、自分が目指したい姿をイメージしましょう。
各方面にバランスの取れた目標設定を行い、肯定的なセルフトークを行います。
10.勉強を客観的なゲームにする
中学生・高校生など、特に受験を控えている皆さんは勉強を重要視されているのではないでしょうか。知識を身に付けることや、自分で考えることは生きる上で大切なことで、その意味では勉強は重要です。
しかし、テストや受験に捉われるのは考え物です。テストは点数というスコアが付く、客観的なゲームのような感覚で付き合うことがお薦めです。
ゲームとして付き合うというのは手を抜くという意味ではありません。テストのスコアに一喜一憂しないということです。自分の目標達成のための指標として試験を使うましょう。
そもそも「試験」や「テスト」という言葉そのものが、何かを測ったり、試したりする意味で使われるものです。現在の学習震度を試すのがテスト本来の機能でしょう。
モチベーションの話でも触れた通り、ゲームだからこそリラックスして才能を引き出すことができるのです。反対にテストの点数や順位をあまりに深刻に捉えていると、力も出せず、気疲れしてしまうものです。
現在の中学校・高校でのテストは、正解が一つに決まる出題形式が多く見られます。つまり問題作成者の意図通りに回答することがハイスコアに繋がることになります。このようなテストで知性が測れるというのは無理というものでしょう。
まとめ
1.大きな目標を設定する:高い目標が達成のためのエネルギーを生み出す
2.脳の自動的な学習を使う:脳は反復練習によって自然に学習する
3.セルフトークをコントロールする:言葉によって喚起されるイメージは現実に影響する
4.内発的動機で勉強する:「~したい」というモチベーションが高い能力を発揮させる
5.脳内に勉強の「ToDoリスト」を作る:未来に行うことをリスト化することで行動を引き起こす
6.読解力を鍛える(読書をする):文字情報を理解する能力は学びの土台になる
7.頭の回転を速くする:簡単なトレーニングで思考スピードが上がる
8.思考力を鍛える:考える習慣が優れた理解力・判断力を養う
9.生活のバランスを保ちながら勉強する:バランスが取れていることで勉強にも身が入る
10.勉強を客観的なゲームにする:勉強は大切だがテストのスコアなどにはとらわれない