本稿では、卓球でハイスピードなラリーができるようになる練習メニューを解説しています。
卓球は球技の中でもプレーヤー同士の距離が近く、反応スピードが最も要求される競技だと思います。ラリーのスピードについていくための練習を行うことで、試合を優位に進めることができるでしょう。
本記事では「反射」や「無意識」などの脳のメカニズムをもとに、最高速でのプレーを実現する方法を提案したいと思います。
卓球のラリースピードについていく練習とは?
冒頭でも触れた通り、卓球の試合で行われるラリーにおいて、プレーヤーは高い反応スピードが要求されます。回転やコントロールの技術も必要ですが、その技術を使うためにはラリーに対応するための反応スピードが必要でしょう。
本章のポイントはこちらです。
Point
・卓球のラリーは生得的な反射のスピードを超えている
・人間の脳は訓練によって反射を超えることができる
・思考を中継せずに、ラリーを直接感じとる
それでは詳しく見ていきましょう。
卓球のラリーのスピード
卓球は2m74cmの台を挟んで初速180kmにも及ぶボールを打ちあうスポーツで、このようなスピードでのラリーは生まれつき備わっている反射速度を越えています。
反射とは皆さんご存知の通り、熱いやかんに触れたときとっさに手を離すような働きです。このとき頭で考える働きは中継されておらず、体を動かす指令がダイレクトに運動へと繋がります。
卓球の試合では「ボールが見えた」と頭で考えてから体が動くようでは間に合わず、瞬間的に体が反応するよう訓練しておく必要があります。
頭で考えずに体の反応に任せて動くという意味では、卓球のラリーは反射的なプレーです。しかし。生得的な反射速度は0.1秒程度と言われており、これでは卓球のラリーには間に合いません。
卓球のラリーで求められる条件反射
卓球試合で正確なラリーを行うためには、後天的な反射を作っておくことが大切です。スイングやラケット面を頭で考えるのではなく、無意識に行えるように反復して練習します。
体が無意識に動くように練習することを自動化と言ったりしますが、このような訓練が卓球には求められます。
体が無意識に動くと書くと難しいようですが、ようは慣れのことで、日常的にも使われている働きです。
例えば自転車の運転です。初めて自転車に乗るときはバランスを取ることが難しく感じられますが、練習を繰り返すことで感覚がつかめてきます。
一度乗れるようになると、乗り方を忘れる方が難しいくらいです。
生まれつきの反射に対して、学習によって身に着けられた即座の反応を「条件反射」と言います。
卓球の試合におけるスピーディなラリーでは、ボールに対して自然に体が反応するような条件反射を身に付けておくことが大切です。
卓球で無意識でのラリーを行うメリット
「感覚」や「無意識」というとあいまいなようですが、人間のパフォーマンスを上げるために重要な要素であると考えられます。
卓球のラリーで無意識の働きを使うことには、以下のようなメリットがあります。
・反応が早くなる
・体が自動的に反応する
・状況判断が良くなる
反応は早くなるのは、ここまで説明してきた通りです。無意識でのプレーは頭で考えることを中継せず、ダイレクトに体に指令が出されます。
反応速度が早いことはスポーツに共通する利点ですが、卓球においては特にその重要性が高いでしょう。
また、無意識とは名前の通り気が付いていない活動のことですから、本人には自動的に体が動いているような感覚になります。
先ほどの自転車の例で言うと「ハンドルの動き」や「ペダルを踏む動き」を一つずつ意識する必要はなく、体が自然に動きます。
卓球のラリーでも体が自然に動くような無意識的なプレーが大切です。
卓球で無意識でのラリーを身に付ける練習メニュー
卓球の試合でのラリーは無意識の条件反射が重要であることを確認しました。
相手が打ったボールに対して自動的に体が反応する。本章ではそのような技術(反応)を身に付けるための練習メニューを見ていきましょう。
本章のポイントはこちらです。
Point・ボールへの集中状態を習慣化し、ボールに対して体が無意識に反応するようにする
・一点に集中することで思考を中継せずにダイレクトに反応できる
・集中が深まると「ゾーン」への扉が開く
それでは詳しい内容を見ていきましょう。
ボールに集中することで卓球のラリーは自動化される
試合でのラリーで無意識の自動的な動きを利用するためには、当然ながら練習によって無意識的なプレーに慣れている必要があります。
方法はとてもシンプルで「練習中にボールに集中する習慣を身に付ける」だけです。
卓球のプレー中に無意識の働きを使うためには、頭であれこれと考える働きを抑えておくことが有効です。
簡単に言えば「考えないこと」なのですが、これは「考えないようにしよう」と思ってできるものではありません。考えないようにすると言うことは、考えることと同じだからです。
そこで1つのテーマに対して「集中」します。人はある一点に集中することで頭の中の雑念をオフにすることができます。
なぜ「ボールに集中する」と卓球が上手くなるのか?
卓球で一点に集中するとき、集中の対象(テーマ)とするべきものはボールです。
卓球はボールを打ち合うスポーツで、相手側の台にボールが返球されることがポイントを獲得する必須条件です。フットワークにせよ、ラケットのスイングにせよ、プレーヤーは「ボールに合わせた動き」が求められます。
卓球のプレーにはフットワークや戦術など多様な面がありますが、まず身に付けたいのがボールコントロールの技術です。
ボールを狙ったところに飛ぶかどうかは、ラケット面とボールの接触のタイミング=インパクトが決定します。ルール上、プレーヤーがボールの軌道に影響を与えられるのはインパクトの瞬間だけだからです。
ボールに合わせたスイングで、ボールに合わせたインパクトを実現する。これが卓球におけるボールコントロール能力です。
そしてボールに合わせたスイングを行うための方法が「ボールに集中する」ことなのです。
ボールをよく見て集中することで、五感を通してボールの情報が脳へと送られます。脳がボールの動きを情報として正しくキャッチすれば、体は自然とボールに対して最適なスイングを行います。
卓球の指導方法としてよく見られるのが「バックスイング」や「フォロースルー」などのフォームに関するものです。もちろんこれらの動作はボールを打つために欠かせませんが、外側の形に目を向けていては本質はつかめません。
卓球はボールへの集中で「ゾーン」の扉が開ける?
皆さんは「ゾーン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
「ゾーン」は深い集中状態でアスリートのパフォーマンスが極度に高められる状態で、スポーツにおける理想形ともいえるものです。
ゾーンは一流のアスリートでも生涯キャリアのうちに稀に入ることがあるというものです。それゆえ意図してゾーンに入るというのはいささか難しいところでしょう。
しかしプレー中に集中を深めることを習慣化すれば、ゾーンに近づくことはできます。そのとき行うのがボールへの集中です。
単純に「集中しよう」と思っても集中状態に入ることはできません。しっかりと集中をするためには「テーマ」を設定すること。
テーマを設定してその一点へと意識を注ぐことで雑念がキャンセルされ、頭の中がクリアな状態になります。卓球のプレー中にはボールに集中することでゾーンへと続く道を進むことができるのです。
フォアハンド、バックハンド、サーブを同じものとして観る
卓球の練習では「ボールに集中する」ことが大切。そう聴くと「フォアハンド、バックハンドなどのショットごとのフォームが分からない」と思われる方もいるかもしれません。
先ほども「バックスイング」や「フォロースルー」などのフォームを分類する卓球理論への疑問を提示しましたが、改めてこの点について考えてみましょう。
卓球の技術の中核を「感覚」だとご説明しましたが、感覚というのは個別の技術を一まとまりにして、総体として身に付けるという特徴がみられます。
例えば、日本語(母国語)を話す時には「これは『助詞』で、これは『助動詞』で…」という風に切り分けて覚える必要はありません。小さい頃から日本で生活をしていれば、様々な表現方法が「一つの言語」としてまとめて習得されます。
いわゆるネイティブスピーカーのことですが、上記のようなナチュラルな学びのプロセスによって言葉を身に付けています。外国語を勉強する時にも、細かな文法事項を覚えるよりも「音読」をしたり「音声を聴いて、真似をする」といった感覚的な練習を行うと効果があります。
「言葉について言えるから、卓球について言える」というのは乱暴ですが、学習の方法としては参考になります。
フォームは、確かに卓球のトップ選手の動きについて正確な説明を行っているのでしょう。しかし、それはプレーヤーの動きの外側の形であって、プレーヤーの内側にある能力に視点が向けられていません。
自転車の乗り方を言葉で説明するのが難しいように「習うより慣れよ」というのが理に適っている分野があります。
卓球の「フォアハンド」「バックハンド」などのショットの分類。あるいは「バックスイング」「フォロースルー」などのスイングの分類。
これらを細分化せずに「ボールを打つ」というシンプルな視点で捉えてみましょう。ボールだけに意識を集中してボールを打つことで、スイングは動作は自然と最適化されていきます。
まとめ
●卓球のラリーのスピードは生まれつきの反射神経を超える
●頭で考えるのではなく、条件反射の直観的な反応に任せる
●ボールに一点集中することで無意識の働きが優位になる
●思考を中継せずにプレーを直接感じることで、プレースピードは最速になる
●集中状態が深まることで「ゾーン」へと繋がる
・卓球のラリーは生まれつきの反射スピードを超える
→意識的に考えて体を動かすのでは間に合わない!
・ボールに一点集中することで、プレーを直接体感する
→考える働きを抑え、反応スピードを最大化
・無意識でのプレーは『ゾーン』に繋がる
→体が自動的に動くように条件反射を身に付ける